パリから約3時間半、スペインとフランスの国境近いダクスという温泉で有名な地域に2020年5月ランド・アルツハイマー村が誕生しました。名前の通りアルツハイマー病の患者が暮らす施設でアルツハイマー患者だけではなく、その他の疾患を持つ患者も含めて120名の住民を受け入れています。建物のうち10ヶ所は60歳未満の人達の為に確保され、12ヶ所はデイケアと一時的な宿泊施設を利用する事ができます。このダクスという地域はボルドーからTGVで1時間15分、パリから3時間25分と非常にアクセスしやすい地域です。建築に非常にこだわっており、親しみやすく、思いやりのある建築をイメージした作りとなっており、ランド地方の伝統的な建築様式を取り入れています。
300㎡の住宅16棟には7~8人の住民を収容し、住民の様々なライフスタイルを尊重しつつ、住民の自主性とプライバシーを尊重した建築となっています。
この建物を建築、デザインしたフランスとデンマークの合同プロジェクトマネージングチーム、シャンパニャ&グレゴワールとノルド・アーキテクツはバスティードという中心的な場所を中心に生活が構成される村をイメージし、技術的な部分では自然採光を促進し、空間の持続可能性を確保し、シンプルでスケーラブルかつ経済的な運営を保証するための形状、素材、設備になっています。バスティードにはカフェやレストラン、図書館や講堂、研修生や介護者のための宿泊施設を備えた医療センター、食料品店、美容院があります。
また5haある公園では希望者は菜園でガーデニングを楽しんだり、ロバなどの動物の世話をすることができるほか講堂でのコンサートや絵画制作などのアクティビティもあります。
入居者の自由と尊厳を優先させている分危険もつきものですが、事故を防ぐためにありとあらゆる事態を想定し、入居者の靴底にICチップを埋め込み、敷地内から出るとアラームが作動するような仕組みにしたり、深夜に起きるとビームライトが反応、ガラス張りの開口部があちこちに作られ、死角がないように工夫したりしています。
そしてこのプロジェクトはエネルギー管理、利用者の温熱的快適性、長期的な環境性能の維持においてもとても効果的です。ではフランスでは初となるこの施設が設立されるのにはどのようなきっかけがあったのでしょうか。
2013年11月「ル・モンド」紙がオランダホグウェイの取り組みであるアルツハイマー患者のための革新的な施設の受け入れに関するレポートを掲載しました。その記事を見た当時ランド県議会副議長県議長を務めていたアンリ・エマニュエリはすぐにランド県でも同様の村プロジェクトを立ち上げたいと考えました。
フランスにおいても革新的でこの取り組みは、とてもユニークで医療的というよりは社会的なアプローチとして捉えられています。現在ランデス・アルツハイマー村には120人の住民(60歳以下の10人を含む)が住み、120人の従業員と120人のボランティアが働いています。主には社会生活、健康、研究の面で患者とその介護者の生活の質と幸福を向上させるべく様々な取り組みをしています。具体的には患者本位の支援と非薬物療法的アプローチを展開し、患者の認知能力と実践能力を可能な限り維持するための姿勢と治療活動を推進しています。また、この村にはアルツハイマー病のフランス人専門家、医療専門家、医療、社会的ケアの専門家が集まり、最良の治療法を探るためのリサーチセンターが完備されています。
このリサーチセンターはランド県議会とヌーヴェル・アキテーヌ地方衛生局が共同で5年間に渡り実験を行うためのものであり、その目的の一つとしてアルツハイマー病患者やその家族、周囲の人々に提供されるケアの妥当性を科学的に実証し、また開発したモデルを全国的、さらには国際的な規模で再現可能にすることができます。そしてこの目的のためにいくつかの研究が実施されており、専門家の仕事の質の研究、村人、介護者、ボランティアの生活の研究、一般市民と一般開業医との病気に対する社会的認識の進化、あるいは施設の社会経済的分析等が行われています。
「ランド・アルツハイマー村」と同様の村の建設はイタリアのローマ近郊やオーストラリアやノルウェーでも行われていて、カナダやイギリスでも計画が進行中の様であり、ノルウェーに関しては街全体の計画となり、入居者が敷地から外に出て道に迷っても地域の住民が手助けできる環境を整えています。
日本でも2025年には5.4人に一人は認知症になると予測され、誰もが直面する可能性のある問題の解決に向けてアルツハイマー村の建設は今後私たちの選択肢の大きな一つになることは間違いないでしょう。
引用
・https://villagealzheimer.landes.fr/en/
・https://president.jp/articles/-/61961
・https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20220929-OYTET50003/
・https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1105.html