タクティールケアとはラテン語で「触れる」を意味する「タクティリス」に由来するスウェーデンで生まれたケアです。その意味が示すように手を使って10分程度相手の背中や手を押すのではなく、やわらかく包み込むように触れるのがタクティールケアです。
このケアは1960年代未熟児ケアを担当していた看護師によって提唱され、私たち自身の手が持つ力を再認識させてくれます。看護師は母親が幼い我が子を慈しみように乳児の小さな体を母親に代わって毎日優しく触れました。その結果体温は安定し、体重の増加が見られました。看護師は触れることの有効性を確認し、タクティールメソッドが誕生したのです。タクティールケアは心地よさや安心感、痛みの軽減をもたらしてくれます。その根拠と考えられるのがオキシトシンホルモンの分泌と痛みを和らげるゲートコントロールです。
オキシトシンとは脳の視床下部で産生されるホルモンです。出産・授乳に関与していることはよく知られてますが、最近の研究では不安やストレスの軽減にも大きくかかわっていることが明らかになっています。タクティールケアで肌に触れるとき、皮膚にある触角が刺激され、脳の視床下部から血液中にオキシトシンが分泌されます。そのオキシトシンが体内に広がることによって不安やストレスが和らげられるのです。
一方ゲートコントロールは触覚や圧覚が痛覚を抑制するメカニズムに関する学説です。脊髄には痛みを脳に伝えるゲートがあります。ゲートが開いていれば痛みを脳に伝え、痛みを感じます。反対に閉じていれば、痛みを脳に伝えることはできません。タクティールケアによって心地よさや安心感が生まれるので痛みのゲートが閉じられることによって、痛みが軽くなったように感じるのです。
千葉県でデイサービスや介護相談支援センター、小規模多機能型施設等の介護サービスを提供している舞浜俱楽部では実際にタクティールケアを導入し、認知症の緩和ケアとタクティール・ケアを広める活動を行っています。舞浜倶楽部の正社員はほとんどが本場スウェーデンで研修を受け、運営する二つの有料老人ホームでタクティールケアを位置付けている利用者に週2~3日で提供しています。
介護者が利用者と一対一で向き合うことにより、利用者に心地よさや安心感を提供する。そういうケアを実現したくてこの取り組みを始めたのだと舞浜倶楽部の代表取締役のグスタフさんは言います。今後介護施設や病院など様々な介護現場で導入が期待されるタクティール・ケアですが、介護者の負担を軽減し、入所者の満足度を高めることが期待できることからさらに認知度を上げることが今後のためにも急務と言えるでしょう。