アジアでは高齢者人口(65歳以上)が急速に増加しています。中国では2021年に既に2億人を突破し、シンガポールでは2030年までに4人に一人が高齢者となることが見込まれています。2040年時点での高齢者の人口の増加率は日本では2021年より5.5%増にとどまる一方でシンガポールでは130%、中国では90%増加すると言われています。
高齢者人口が急速に増加するシンガポールや中国ではコロナ禍にデジタルヘルスの活用が進展しました。今回はそんなデジタルヘルス発展国の中でもシンガポールの取り組みを見ていきたいと思います。
シンガポールではコロナ禍でヘルスケアインフラの不足が問題でした。そのためシンガポール政府はヘルスケア施設の整備を急ぐとともに、コロナ禍でデジタル活用が進んだことに着目し、デジタルヘルスの基盤となる健康・医療・介護情報のプラットフォームの構築を推進しています。
具体的には2000年代初頭から電子医療記録を導入することで医療システムのデジタル化に取り組み始め、The National Electronic Health Record(NEHR)のようなシステムを設立した最初の国の一つであり、患者の健康記録を総合管理するシステムを構築、医療業務の効率化を実現しています。
このデジタル医療記録の総合管理システムによって各患者の健康データは全ての医療機関(一般開業医の診療所から公立病院、医療センターなど)でデータが共有され、医療従事者はシームレスにアクセスが可能になっています。現在、このクラウドデータベースへは年間4万人以上の医療従事者がアクセスしています。
このヘルスケア提供体制は保健省傘下で非営利の株式会社として運営される三つの公的なヘルスケアグループとその他の多数の民間機関で構成されており、また最近ではデジタル医療記録は患者データの解析の部分でAIが導入され、さらに高精度の診断の実現に向けた取り組みが行われています。DiscovelyAIと呼ばれる人工知能ヘルスケアシステムは国立大学病院で導入された医療システムで(NUHs)で医師が診察や診療を行う際にAIがスピーディに解析し、意思決定をサポートすることができます。
これまでデータベース化された患者のヘルスケアデータを引き出し、照合、レビューを行ったうえで診断、診療を行ってきた時間がAIが自動化することによって時間を短縮し、医師や看護師などの医療関係者は患者への直接的なケアにより多くの時間を割くことが可能になります。現在シンガポールにはアジア最多のヘルスケアスタートアップ企業が拠点を構えており、国内外のスタートアップ企業が医療、健康、福祉の分野でデジタルイノベーションのチャンスをうかがっています。
日本においても高齢化は今後も進み2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%に達し、2070年には約39%になると推計されています。これにより医療、介護、年金などの社会保障制度への負担が増大し、労働力不足や経済規模の縮小、地域社会の活力が失われるといった問題が深刻化することが懸念されるなか、シンガポールのヘルスケアの取り組みは日本の医療提供体制の向上に有益であると考えられ、大きなヒントになりうると考えられることから日本でもデジタルヘルスが発展し、人々の生活がさらに良くなることを願ってやみません。
引用
. https://www.dlri.co.jp/report/ld/270929.html
・https://www.dbj.jp/topics/investigate/2023/html/20240105_204621.html
・https://www.edb.gov.sg/ja/newsroom/news-library/2020jan-jp-article-01.html