1980年代以降イギリスでは社会格差やストレスなどによって健康格差が生じる健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health)に関する研究が進み、注目が集まるようになりました。それに対応するものとして2006年に保健省の白書「Our health, our care, our say」で社会的処方が取り上げられました。
この中では家庭医(かかりつけ医、GPともいう)の負担軽減を図ることや、健康と自立の促進・ローカルなサービスへのアクセスの仕組みが言及されています。その後イギリス国内全体に広がり、2017年には100以上の地域で社会的処方の取り組みが行われるに至りました。
社会的処方は高齢者の孤立化やうつ病患者の増加など社会的課題を背景にオランダや北米でも広がりを見せており、我が国日本でも2020年に政府の骨太の方針に盛り込まれ制度としての準備が進められています。
イギリスの社会的処方では基本理念として人間中心性(person-centredness)、エンパワメント(empowerment)、共創(co-production)を軸としており、人間中心性では同じ症状を持った人でも同じ解決方法を紹介するのではなく、その人となりやバックグラウンドをきちんと理解したうえでそれぞれに合った処方をすること、エンパワメントではその人が持ってい力を引き出したり、才能を伸ばしたりすること、自分では「やったことがない」「できない」と否定的になっている思い込みから解放し、誰にでも社会参加ができる場所があることやできる方法を知ってもらうように働きかけること、共創では社会的処方ができないと思われる場合でも一人一人の興味や関心に寄り添い、必要な場所やつながりを共に創っていくことが述べられています。
それでは具体的にどのような処方を行うのでしょうか?まず社会的処方者は家庭医の他に看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師などの医療従事者であることが多いが課題を抱える人が所属している様々な主体による地域、場、活動などの場合もあります。次にリンクワーカーは社会的処方者と紹介先をつなぐ役割を担い、主に非医療者で現段階において統一的な資格があるわけではなく、ヘルスアドバイザー、ヘルストレーナー、ケアナビゲーター、地域ケアコーディネーターなどと呼ばれています。
所属先は家庭医診療所やボランティア団体など地域によって異なります。そして紹介先ですが主にはボランタリー・コミュニティセクターの組織やグループで音楽や美術、スポーツやガーデニングなどの趣味の集まり、ランチグループ、自助グループ、ボランティア活動、職業訓練、住宅・雇用・教育・お金などの相談窓口である行政や関連機関などです。
日本では2021年世界でイギリスに次いで二番目に孤立・孤独担当大臣が設置されました。日本は世界の中でも孤独を抱える人が多いとされ、高齢者のみならず若い世代においても頼る人のいない環境に置かれ孤立する人が増加しているそうです。
またコロナ禍を経て地縁、血縁、社縁がといった人とのつながりがさらに薄くなっていることもあるそうで、長年社会的処方に取り組んできたイギリスでは信頼性が高いエビデンスが十分ではないとはいえ、実際に社会的処方によって孤立や社会的孤立の改善、不安や抑うつの解消、自己効力感の向上、救急の利用や医療コストの削減に成功した事例も考えると、日本においても大きな意味を持つことが考えられ、今後さらに啓発活動などを通じて社会的処方活動が普及させることは急務であり、行政と地域社会の双方でこのような取り組みが当たり前になって人々が生きがいを持って暮らせる社会になることを願ってやみません。
引用
・https://business.fitnessclub.jp/articles/-/1200
・https://ideasforgood.jp/glossary/social-prescribing/