6/19日(月)にイギリスのデプデンにあるデプデンケアファームを訪問しました。デプデンケアファームのあるデプデンはイングランド東部サフォークのウェストサフォーク地区にある村と市民教区です。ベリー・セント・エドマンズの南西約8kmに位置しています。
ベリー・セント・エドマンズから車で走ること約20分、到着するとデプデンケアファームの管理人であるティムフリーシーさんと管理委員長のジェリーマッシーさんが出迎えてくれました。デプデンケアファームは、どんな能力の持ち主であれ誰もが自尊心、自信、セルフケアを高める有意義な仕事ができ、その貢献が評価され、尊重される場所作りをミッションとして、近隣地域(サフォーク、南ノーフォーク、東ケンブリッジシャー、北エセックス)の学習障害、後天性脳損傷、自閉症、認知症、メンタルヘルスから回復している人を対象に治癒的な場所を提供しています。活動内容としては園芸、農業、家畜の世話、農場整備の他環境保護プロジェクトにも参加しています。園芸、農業、畜産は学習プログラムとしての位置付けであり、その他仕事の機会の提供も行っています。
到着後まず日頃利用者さんが活動をしている農場を見せていただきました。デプデンケアファームでは大小様々な動物が飼育されており、具体的にはウサギ、カメ、モルモット、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ロバ、ウマがいます。
週末や休日はティムさんとマークさんがお世話をしています。また飼育されている動物の他に畑や果樹園、マーケットガーデンもあり、利用者さんのニーズや適性を判断して役割が分担されます。それではデプデンケアファームの利用者さんは毎日どのような活動をしているのでしょうか。デプデンケアファームの利用者さんは毎日朝9時30分にケアファーム到着後、お茶を飲みながらその日やる仕事の内容などについて話をします。11時にコーヒーを飲み、その後11時30分には外に出て作業をします。この作業というのは季節によっても異なるそうですが、基本的には水やり、庭木の手入れ、収穫、野菜や作物の世話などです。野菜や作物などは収穫し、冬に備えて貯蔵します。ショップで働く利用者もいるようで、ティムさん曰く、参加している利用者さん全員がそれぞれ異なった明確な目標を持っており、そんな彼らの目標を達成できるため、しっかりサポートして彼らが成長していく姿を近くで見ることができることが嬉しいとのこと。日中このような野外活動を行い、15時30分には帰宅します。お昼ご飯について聞いたところ、利用者さんはお弁当を持参しているとのこと。しかしながら、利用者さんの栄養レベルが非常に低いことを認識しているため、健康的な食事に関するトレーニングプログラムをスタッフに実施しているそうです。
今現在スタッフは7人おり、メタルヘルスの専門家もいれば教育や指導のスキルを持っているスタッフ、様々なスタッフが利用者をサポートしている他ランティアさんもおり、週半ばに来る人、週末だけ来る人、1か月に1度来る人など人により様々です。
デプデンケアファームを運営するミレニアム・ファーム・トラスト(慈善団体)は1998年にケアファームサービスを普及させることを目的として設立され、2014年10月にデブデンケアファームに来たそうです。今現在ケアファームには一日辺り10~12人の利用者さんが来ており、中にはマンツーマンのサポートが必要な人もおり、少人数のチームで仕事をしに来る人もいるそうです。個々のニーズは紹介プロセスを経て利用者さんがケアファームに到着した時には既にサポートプランが用意されています。国のケアシステムによってケアファームに預けられる利用者の情報は前もってニーズや預けられる理由などが受け入れ側であるケアファームの方に共有されているため、このような迅速な対応をすることができるのです。またイギリスでは介護認定を受けることさえできれば、手当てが支給されるため利用者は自宅にいることもあり、自宅の掃除や買い物の手伝い、車の運転などをホームヘルパーにお願いすることもできるそうです。
最後にティムさんにケアファームの運営における最も重要な課題や困難は何かと、日本で我々が考慮すべき点を訪ねてみました。すると運営上の課題でまず一つ目におっしゃったのが適切なスタッフを採用することでした。ティムさん曰く、デプデンケアファームは幸い素晴らしいスタッフに囲まれ、定着率が良く、一度この職場に入ると、長く働いてくれるそうですが、中にはキャリアアップを目指して転職しないといけない人もおり、そのような時我々は小さな組織だからこそ外の世界に目を向けなければいけないと言います。さらに異なるニーズを持つ様々な人たちをまとめるのは難しく、体調が悪かったり、交通手段が確保できなかったという理由で来られない人たちもいる。利用者が一人来るか、来ないかでその日の活動スケジュールが大幅に変わる。これはとても大きな事だと話します。
また、管理委員長のジェリーさんは戦略上、資金調達はとても大事な点だと言います。そのためにも国のケアシステムやケアシステムの構造をしっかり理解すること、自分たちの活動の中で何に焦点を合わせ、達成したいことを明確にすることが大事であるとおっしゃっていました。ちなみにデプデンケアファームでは、ティムさんがよく使う言葉のようですが、「我々は動物を繁殖させるのではなく、作物を育てるのでもなく、人を育てる」という考えを大切にしており、常にそこに焦点を当てて活動しています。
私たちが取材で訪問した日の約1週間前の6月8日にロンドンで開催されたライブ・セレモニーで発表された英国チャリティ・ガバナンス・アワード2023の6つの受賞団体の内のひとつに選ばれました。ティムさんは、自分たちは大きな魚だと思ってしまいがちだが、実際はとても大きなプールの中の小さな魚である、と話し、イギリスにはケアファームはたくさんあるが、でもやり方はみんなそれぞれ違っていて、自分たちのやり方を人々に伝えるために、または存在、できることを人々に知ってもらうためにメッセージを発信する様々な方法を常に考えていると言い、デプデンケアファームは賞を受賞した甲斐もあり、マスコミに出演して人々に発信できているようです。
今回デプデンケアファームを訪問して感じたこととして、動物の存在が人々に及ぼす影響はやはり大きいということです。日本でも多くの方々がペットを飼っていて多くの人たちがヒーリング効果を得ていることは言うまでもないですが、それだけではなく、ペットを飼うことで芽生える責任感が上手く活かされており、利用者=カスタマーでなく、仲間といった考え方や取り組みにも感銘を受けました。さらにホームページの動画を拝見すると、利用者さん、スタッフ関係なく生き生きとしていて、ここにいることが本当に彼らにとって幸せなんだということが伝わってきました。
今回デプデンケアファームがチャリティ・ガバナンス・アワード2023を受賞したのも謙虚な心で今まで精進してきた賜物であることから、常に謙虚にチャレンジャーの気持ちを持って、自分たちはこれをやっていると胸を張って言える、そんな事業をしていきたいと思います。