オーストリアにおけるケアファームの歴史は1970年代まで遡ります。当時オーストリアでは、高齢者や障害者の方々が施設に入所することが一般的でした。しかしながら、施設に入所することで社会との関係性が薄れ、孤立する人々が増加しました。
1970年代当時オーストリアにはケアファームという概念はまだ一般的に知られておらず、ケアファームとして設立された施設は存在していませんでした。しかしながら、当時から農業はオーストリア経済や文化にとって、重要な役割を果たしていたこと、高齢者や身体障害者などの社会的弱者を支援する為の取り組みを行っていたことから、1970年代初頭にはオーストリア政府は高齢者や障害者などの社会的弱者が自立して生活する為のプログラムを開始しました。このプログラムでは、地域社会で生活する高齢者や身体障害者を支援する為のサービスを提供することが目的とされており、その一環として、農業に関連した作業も行われました。例えば、地域の農家が協力して、高齢者や身体障害者に農作業の手伝いをしてもらい、その代わりに彼らに食事を提供するという取り組みでした。
その後1974年には当時オーストリア上級聖職者であった、アロイシウス・エリッヒ神父によって最初のケアファームが設立され、この活動が広がりを見せるとオーストリア中にケアファームが設立されるようになりました。オーストリアではケアファームの取り組みを支援するために、国や地方自治体から助成金や補助金の援助を受けることができ、また、ケアファームを運営する人たちには専門的な支援を提供する研修やセミナーが用意されています。その為自然療法や動物療法、アートセラピーや音楽療法など様々なプログラムがあることが特徴です。具体的には自然療法では森林浴や温泉、ハーブティーを取り入れ、自然と触れ合い、リラックスし、ストレスを軽減することを目的としています。
動物療法では、馬や犬、ヤギなどの世話を通じて参加者の自己肯定感や責任感の向上、アートセラピー療法では絵画や彫刻などのアート作品を制作することで、参加者が感情を表現する事で自己表現力の向上、音楽療法では音楽の都ウィーンのあるオーストリアならではの音楽を通じたストレスの軽減、気分をリフレッシュする取り組みと、実際に楽器を演奏して、集中力や協調性、創造性などのスキルを向上する取り組みがあります。
このようにオーストリアでは基本的なケアファームのコンセプトは他の国々と変わらないものの、芸術的な分野に力を入れて取り組んでいるのが特徴と言えます。