みなさんはアニマルセラピーという言葉を聞いたことがあるでしょうか。アニマルセラピーとは動物との触れ合いを通じて安らぎを得ることで精神的な健康を回復させ生活の質(QOL)の維持や向上を目指した療法の一つです。
長期入院を余儀なくされ生きることへの意識が低下している患者や身体の障がいでリハビリを必要とする患者に「動物の世話をする」という目的を与えることで生きる希望を持たせたり、作業を通してリハビリを促したりします。
もともとは海外で発症したものでその起源は古代ローマ時代に傷ついた兵士のリハビリに乗馬を用いたことが始まりとされています。その名残で現在でも「乗馬療法」は行われており、その他にも1700年代にイギリスの精神障がい者施設で患者に感情をコントロールする能力を身につけさせる目的でうさぎやニワトリが用いられていたことや、1800年代にドイツで知的障がいを持った人たちのコミュニケーション能力を高めるために犬や猫と触れ合わせたという記録が残っています。
以降アニマルセラピーは世界各国で身体に障がいを持った人や心に傷を負った人たちへの治療の一つとして取り入れられてきました。
実はアニマルセラピーという言葉は日本独自の造語であり、海外では(Animal Assisted Therapy)=AAT、(Animal Assisted Activity)=AAA、と呼ばれ、アニマルセラピーではないですが動物を用いて行われる教育を(Animal Assisted Education)=AAEと呼んでいます。そんなアニマルセラピーですが役割として最も効果が期待できるのがその名の通りすトレスの軽減や癒しなどの心理的安定を促すことはもちろん、コミュニケーション能力や自立心の向上です。
実際山口県の岩国医療センターではセラピー犬3頭ががん患者の緩和ケアを目的に定期的な訪問をするようになってから患者と医療従事者間のコミュニケーションが円滑になったり、患者やその家族、そして医療従事者にも癒しが確認できたりとその有効性が報告されており、2013年にはイギリスで犬と生活を共にする高血圧患者の血圧が低下したとの研究成果が報告されています。これは「オキシトシン」が分泌されてストレスが軽減されたことによる効果であり、近年広く知られてきています。
このように病んだ心を穏やかにしたり孤独を感じ心を閉ざした人の心を開いたりと動物は人間の心を癒して生きる希望を与えてくれるほか、身体の治療を目的とした癒しをもたらしてくれます。それだけではありません。アニマルセラピーは認知症の症状緩和にも効果を発揮します。動物とのコミュニケーションは認知機能の維持、向上に役立ち、また動物の存在は感情表現を豊かにし、意欲の向上や社会性の向上に繋がります。
日本で初めてアニマルセラピーが始まったのは1920年代の森田療法で1970年代には乗馬セラピー、1980年代にはドッグセラピーが開始され、ボランティアによる触れ合いを中心とした動物介在活動は数多く取り組まれ、医師や看護師などの医療従事者による治療目的の動物介在療法も全国で取り組まれています。その結果少しずつですがドッグセラピーは認知度があがり浸透してきているものの世界と比べるとまだ歴史は非常に浅いのが事実です。それではなぜ日本ではアニマルセラピーはそこまで浸透しなかったのでしょうか。
理由としてはいくつかありますがまず初めにあげられるのが収入が得られない点です。現在日本でドッグセラピーを導入している病院や施設はドッグセラピーにかかる費用を自分達で負担しており、経営者からしてみるとドッグセラピーの対象者にドッグセラピー費用を請求できない無料サービスなのに人件費などの費用が発生する赤字の事業なのです。医療、福祉機関は経済的に苦しい施設が多く、ドッグセラピーの費用を負担してまで取り入れようとする施設は少ない現状があります。
次に効果が証明できない点です。ドッグセラピーをすることで対象者が精神的に安定したり、リハビリなどの身体的な効果があることは多数報告されているものの、その効果の証明が十分にできていないのです。
数値化したデータを元にドッグセラピーの効果を実証できないと医療の現場では積極的に取り入れられるのは難しいようです。最後に衛生面です。ドッグセラピーで訪問する犬たちは衛生面に十分配慮されており、ドッグセラピーを導入している病院では保健所に相談して衛生管理の方法を決めていますが明確な決まりがありません。さらに感染症などのリスクを考慮したりすると導入に前向きになれないようです。
そしてこれらの理由とは別に日本とペット先進諸国では動物に対する考え方が全く異なります。日本人にとっての犬は愛玩動物であり、可愛がる対象であるのに対して海外の人にとっては家族の一員なのです。例えばドイツでは1日の内に犬と一緒に過ごさなければならない最低時間が決まっていたり、イタリアでは1日3回の散歩をしなければ罰金など非常に厳しくなっています。
このように日本とペット先進諸国では環境が大きく異なり、ペット先進諸国では当たり前のように医療の現場において活躍している動物たち。今後日本における医療、福祉分野のさらなる発展のためにもアニマルセラピーサービスの導入や啓発活動は今後とても大事と言えるでしょう。
引用
・https://www.kaigonohonne.com/guide/home/life/animaltherapy
・https://driving-maul.co.jp/lp/column/effects-of-animal-therapy/
・https://petand.co.jp/blog/13737/
・https://wantempo.com/spread-of-dogtherapy/