ドイツのケアファームは1990年代に始まったとされます。社会福祉や農業に携わる人々が自然との繋がりを通じて人々の健康を支援するという目的でいくつかのケアファームを設立しました。当初は農業や自然の療法を専門的に行う施設が中心でしたが、その後障害者や高齢者、精神疾患を抱えた人々などより広い層に対して身体的、精神的なケアを提供する施設が増えました。2000年代に入ると政府や社会福祉団体からもケアファームの有用性が認められるようになり、法的にも認可されるようになりました。この頃からケアファームは障害者や高齢者、精神疾患を抱えた人々だけではなく、社会的弱者や難民など社会的に支援が必要な人々を対象とした施設としてますます注目されるようになりました。
2010年代に入るとドイツの人口構造が高齢化し、高齢者の介護やケアの問題が深刻化したこともあり、ケアファームの需要が急増しました。また農業や自然療法を利用した健康的なライフスタイルの提案としても注目を浴びています。現在ではドイツ国内には約2000以上のケアファームが存在しており、様々な人々の健康や福祉の支援に貢献しています。
では具体的にはどのような取り組みがされているのでしょうか。事例をいくつか見ていきましょう。
ドイツのケアファームでは以下の取り組みがあります。
・まず初めに農作業や園芸、季節の作業を通じて自己肯定感やコミュニケーション能力の向上、ストレスの軽減、運動能力の向上などの効果を期待し、高齢者や障害者、心身に問題を抱えた人々を農場や自然環境の中で介護すること。
・さらに人々との交流を通じて、孤独感の解消や社会参加の促進、自然との触れ合いによる心身の健康作りを目的とした取り組みのほか農作業や畜産業を通じた食育の推進、オーガニック食材の利用、地産地消の取り組みなど健康的で環境に配慮した食生活の促進、ケアファーム内での職業訓練や就労支援、農業や園芸などの技術習得や就労経験の積み重ねを通じて社会復帰や自立支援を目指す。
・最後に自然環境や景観の保全です。そこにはケアファームが地域の景観や環境を守ることで地域住民との共存、共栄の狙いがあります。
以上からもわかるようにドイツのケアファームは高齢者や障害者、心身の問題を抱えた人だけではなく、地域社会にも貢献していることがわかります。しかしながら、ドイツ国内にはケアファームを支持する州もあれば支持しない州もあり、オランダやノルウェーのように公的資金の提供は稀であり、必要なスキルや能力を学ぶための正式な機会は今のところほとんどないのが現状のため今後どのようになっていくのか動向が注目されます。