わが国では人口高齢化などを背景として、アルツハイマー病などの認知症をはじめ、筋委縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの(PD)などの神経難病の患者数が右肩上がりに増加しています。認知症や神経難病では物忘れなどの認知機能障害のみならず、運動機能障害など多様な症状がしばしば出現しますが、原因がよく分からないために治療が十分に確立しておらず、病状の悪化や介護負担の増大を招いています。
ヨーロッパ同様に日本にも認知症の村が存在しており、紀伊半島南部に存在していますが村民のプライバシーを尊重し、詳しい所在地や名前などは非公表となっています。この紀伊半島で多発している紀伊ALSパーキンソン認知症複合(紀伊ALS/PDC)では患者ごとに目立つ症状が異なりますが、近年は当地区の高齢化や生活習慣の変化に伴って、ALS症状の激減とPDCの増加が確認されています。これは疾病の原因として、遺伝素因に何らかの環境要因が働いている可能性を示していますが、いまだ原因は確定しておらず研究が進められています。具体的な症状としては体が動かなくなり、歩行や日常生活が困難になるケースや物忘れや意欲の低下といった認知症の症状が出るケース、その両方が出るケースがあり、発症後数年から十数年で亡くなるケースが多いですが中には10代で発症して20代でなくなってしまうケースもあるようです。
通常の場合ALSの発症率が10万人に一人、パーキンソン病が1000人に一人であることを考えると毎年のようにこの村で患者が出るというのは普通ではないということがわかります。そのような中まず疑われたのは水で60年代に現地調査を行った和歌山県立医科大学の研究によってミネラルが非常に少なく、特にカルシウムとマグネシウムの含有量が他の地域の水と比べて大きく下回っていることが判明したのです。
慢性的なミネラル不足が脳の細胞を殺してしまうのではないかと仮説が立てられ、飲料水や農業用水の水源を変えたり、井戸水を使うといった対策が取られるようになりました。また地域の人々が古くなった干物などの食べ物を多く摂っているのではなかいという仮説も立てられたようです。その後80年代に入ると食生活がよくなったからか患者数は減少し、同様にグアムでも減り収束に向かうかと思われましたが90年代にはまた患者数が増加し始めたのです。このことから理由は水や食べ物ではないことが判明したのです。不思議なことにこの多発地帯に生まれた人が故郷を離れて生活していてもこの病気を発症することが少なくなく、この患者同士には血縁関係にある人が多かったのです。
これまでの研究では患者の約8割にその家族にも患者がいることが分かっており、近年紀伊半島のALS患者の一部には「C9orf72」と呼ばれる遺伝子に変異が見られることがわかってきたようです。このことから遺伝病なのではないのかという考え方もあったようですが、この遺伝子の変異は北欧に多く、次にイギリスやグアム、ニューギニアで日本人にはほとんど見られないようです。しかしながらこの村からはすでに3例出ているということから、北欧出身の人が黒潮に乗ってグアムや紀伊半島に漂着したのではないかと予測されています。
そしてある地域で病気が多発する場合、必ず多くの患者に共通の遺伝子が見つかるものだが「紀伊ALS/PDC」のようにではいまだに見つかっていないことや、この地域に来て発病するケースもわずかだがあることを考えると、遺伝だけでは説明がつかないというのです。
今後高齢化が加速していく日本。それは「紀伊ALS/PDC」のように認知症と他の難病を併発する患者が増える可能性があるということ。
そういった事態にならないためにも早急な解決策が発見されることを願います。
・引用
https://gendai.media/articles/-/45646?page=2
https://www.amed.go.jp/pr/2018_seikasyu_07-03.html
http://kii-als-pdc-project.com/research_project.html
https://japanknowledge.com/articles/kotobajapan/entry.html?entryid=3220