高齢社会となった昨今認知症という言葉はよく聞かれるようになりました。オランダでは認知症ケアにユニークな取り組みをしています。それがホグウェイです。
ホグウェイは2009年アムステルダム郊外に誕生した認知症患者専用の老人ホームです。
コンセプトは「認知症の人が普通の生活を送れる村」であり、スーパーや映画館、レストランなど生活に必要な物が全て揃った一つの村として作られており、重度の認知症の人たちが敷地内を自由に行動できる環境になっています。入居者は150人であるのに対し働いているスタッフは240人(2021年当時)となっています。ナース服や介護服は着用せず、「住民のひとり」として入居者に接します。スタッフは全員認知症の人への接し方について熟知したプロで構成されています。ホグウェイが建設された大きな理由がかつて普通の介護施設だった当時に職員として働いていた介護士のイヴォンヌ・ファン・アーメロンヘンさんが「例え認知症になったとしても病院の様な施設に閉じ込めるのではなく、それまでと同じような日常が送れる場所で過ごせないか」と考え、1990年代初めから同僚の介護士と共に調査を開始したことに始まります。アーメロンヘンさん自身アルツハイマー病を発祥した両親を看取っており、その時適切なケアができなかったという後悔があったことから新しいホグウェイという発想が生まれたようです。2000年代に入るとオランダでは国家戦略としての認知症ケアが本格的に始動し、地域ごとの認知症統合ケアプログラムなどが作成されました。そして2009年ホグウェイはアーメロンヘンさんらによって在宅介護が困難な認知症高齢者の為の施設として再スタートを切りました。
ホグウェイでは一つの住宅で6~7人が共同生活をしており、その他にケアテイカーとホームサポーターと呼ばれる介護スタッフが各家に配置され、生活の手助けをしています。ケアテイカーはオランダの介護士の資格を持ち、持病などの与薬のほかお風呂の介助、料理、家事まで対応します。ホームサポーターは食事準備や掃除洗濯などより家事に近い仕事をします。以上6~7人の居住者にケアテイカー1人、ホームサポーターが1人の体制でケアを行っており、このうえに医師などの専門チームがいます。
ホグウェイにはこの6~7人の共同住宅が27棟あり、夜間は夜間専門の対応チームがあり廊下にはモーションセンサー、部屋にはマイクが設置されているなどITを活用して入居者の安全を確保しています。そしてホグウェイの最大の特徴が冒頭にもあった「認知症の人が普通の生活を送れる」ということ。入居者のライフスタイルをユニット別に分類し、入居者が元気であった頃と変わらないような生活をすることができるようにサポートしています。
具体的には①URBAN(都会的な暮らしを好む)②TRADITIONAL(オランダの伝統的な暮らしを好む)③FORMAL(ハイクラスな暮らしを好む)④COSMOPOLITAN(国際感覚が豊か/芸術を愛している人向け)に分類されており、入居前に本人や家族が答えたライフスタイルに関する40の質問項目をもとに選択することができます。また入居後に別のユニットに移動することも可能だそうで入居者がストレスなく生活することができるような空間作りに力を入れていることがわかります。ユニットはかつてさらに細分化され、7ユニットあったそうですが時間の経過と共に4ユニットに縮小されたようです。
このように徹底したライフスタイルの追及で入居者がストレスなく過ごすことができる一方ケアファームとは異なり、地域社会との接触がないことが懸念材料と考える人もいるようです。実際ホグウェイは月額70万円、年間840万円でかなり高額であることから同じ物を日本に導入した場合どのような反響があるのだろうかと思ったりしましたが、日本の介護施設のような職員さんと一緒に買い物に出かけたり、地域の幼稚園児や小学生とつながりを持つといった「地域共生」がないことを考えると人それぞれ考え方は異なるものの考えさせられました。国や制度が変わればどこでも一長一短あるのは当然ですが今後さらに高齢者が生きることの喜びを日々感じることができる、そんな社会になることを願い、自分たちにできることは何か考え実践することが大事だと強く思いました。
引用
・認知症の人のテーマパーク!オランダの『ホグウェイ』って?【世界の認知症ケア】|介護のお仕事研究所 (fukushi-job.jp)